夢心地「岩田栄次の波乱人生」第16話

第16話「栄次!運命の分かれ道」

親指の傷もやっと痛みが消えて、取れそうだった親指も無事元のさやにおさまった。

いつものように薬味を刻んでいると、ドタドタとチーフが入って来たが何か雰囲気が違い、かなり機嫌が悪そうであつた。

いきなり白衣と前掛けを脱いで机に投げつけた。呆気にとられその様子を見ていたが

余計な事を言って怒られたんじゃあ合わないと思いじっと黙って見ていた。

その時、突然「栄次!ちょっと来い!」と事務所に呼ばれた。

恐る恐る近くに寄ると、憤つた声で「俺は今日限りで店を辞める事にした!」

どうやら社長と揉め事があって口喧嘩になったようである。

最後はチーフの方から啖呵をきって「辞めてやる!」と言ったらしい。

「お前を店に引っ張って来て、すまない事になっちまったが・・・・・もし、一緒についてくるなら次の処紹介するし・・・」

答えに戸惑う栄次の頭の中で、もしチーフが居なくなれば当然年下の健さんが責任者になり、今以上にきつくやりにくい雰囲気になるに違いないとの思いがよぎった。

今以上に先輩風ふかすだろうし、何かあってもホロしたり喜んでくれるチーフが居なければつまらないと思いがよぎった。

「俺!チーフに惚れてここについて来たんで、一緒に辞めますよ!」

チーフは「そうか!よし!」と肩をポンポンと叩いた。

簡単にやめる事になってしまい、お世話になった地下のマネージャー達に事情を話したら、その日の晩に温かい人達に囲まれて送別会をしてくれる事になった。

短い期間だったが、裸一貫ザック一つでやって来て人の優しさや厳しさを実体験できた人生であったと思った。

店を辞めたら下宿も出なければならず、チーフもすぐには職が無くしばらくの間他の店で勤めなければならない。

すぐさま、チーフの紹介で野毛町のスナックを紹介してくれてバーテンとして働く事になった。

店の名前はドリームと言い10坪位のお店で30代の美人ママさんが経営しているお店で、昼間は他のバーテンと女の子の二人でやっているようである。

夜の12時迄ママとやってほしいとの事である。

チーフは、和歌山の知り合いが焼肉店を開業したいという事で、目途がついたら呼び寄せるからそれ迄我慢してくれと言い和歌山に旅立って行った。

馬車道通りに下宿も決まり引っ越して、店のお客から貰った簡易ベットを運び、後は荷物袋一つだけである。店のママさんから布団と毛布を有難く戴いた。

お店奥には、ビンゴゲームが3台置いてあり一回100円玉5発で画面の指定した場所に3ツ以上入れるとお金がもらえるという機械である。

連日夜になるとビンゴ目当てで来店する常連は、コーヒーを注文して必ず百円玉一本

5千円を両替して行く。

時には両替して一万とか持ち帰る客はいても、殆どのお客は使いきって帰って行く。

それに美人ママがちょっと甘い言葉を掛けて皆虜でイチコロなのである。

昼間の売上がどのくらいあるかわからないが、夜のビンゴの稼ぎは相当な物である。

入店して1ケ月位経ったが未だチーフから何の連絡も来ない。

ある晩の事、滅多に酔っぱらった事の無いママさんが結構酔ってしまった。

泥酔した状態でママの自宅も解らず、聞き出せる状態でも無く仕方なくタクシーに乗せ

汚い栄次のアパートに連れて行く事となった。

泥酔した彼女を担いで栄次のベッドに寝かせ、自分は数少ない座布団とシーツに

包まって寝る事にした。

朝方、やけに背中が温かい・・と思いそっと振り向くとベッドにいたはずのママが栄次の背中にしがみついて寝ているではないか。・・・・

この後どうなるかは次回夢心地のkokoroだ!