第18話「栄次突然の旅立ち」
チーフが久々にやって来て「和歌山の店の目途がついたから今月末には行けるようにしろ!良いな!」「ママには最初からそう言う条件で話をしてあるからな!」と、
一方的に言われたのであるが、栄次の心情としてはかなり複雑な状態であった。
余り急な話だけに、ママに言うのが遅れると店にも迷惑がかかるし
今晩閉店時に話をする事にした。
すべての片づけが終わり話をする事になり・・
「ママさん!実は、市村チーフが今日来まして・・・本当に急で申し訳ありませんが、
一緒に和歌山に行かないといけない事になってしまいました」
「申し訳ございませんが、今月一杯でお願いいたします。」と切り出した。
「エッ!本当?」唖然として何も言えないママ。
信頼され長く働いて欲しい気持ちも痛切にわかるだけに栄次も辛かったが、
「本当に済みません!親切にして戴き面倒見て貰って感謝してます。でも、これは、
男同志の約束なので、義理をかく訳にはいかないんです。ママさんには本当に済まない
と思います。月末まで休みなしで働きますので次の方の手配をお願いいたします。」
「市村さんとも最初から約束してた事だから仕方ないけど、とても残念だわ」
「こっちに来たら顔を出してね!何かあったら電話して」と、
優しい言葉を掛けてくれた。
そんなこんなで、次の若いバーテンが入り引継ぎを済ませ、いよいよ今晩限りでこのお店とも、美人のママさんともお別れである。
別れを告げて店を出ると「コレ少ないけど餞別ね!」ママが紙に包んだお金を栄次に手渡した。
「短い間でしたがママの事をお姉さんみたいに思っていました。忘れません!失礼します!」と、最敬礼して立ち去った。
アパートに着きママからの紙袋を開けて見ると一万円札と手紙が入っていた。
「突然の事でビックリしたけど、君の為にもこんな処に埋もれていてはダメだから
ちょうど良いチャンスなのかも!もっと長く居て貰いたかったんだけど、これも
運命ね!私みたいなおばさんが言ってもうれしくないでしょうけど、このままいたら
栄ちゃんの事好きになっちゃったかもね?頑張って!ハマの隅で陰ながら応援しています。 けいこ。」と結んであった
複雑な気持ちで読み終わり、ママの気持ちや人の温かさに涙ぐんだ。
又、他の人は誰も知らなママの名前がケイコだと栄次だけに
教えてくれたのも嬉しかった。翌朝馬車道のアパートを引き払い、一路和歌山へ!
栄次の波乱な和歌山編は次回夢心地のkokoroだ!