夢心地「岩田栄次の波乱人生」第20話

第20話「和歌山での新生活」

■お店の真ん前の路地を入り、二階建てのアパートのドアを開けて彼女は栄次の荷物に手を伸ばし「此処の二階だから!それ貸し!ウチが持ってやるけん!」と、荷物を取り上げて二階への階段を先に駆け上がって行った。

彼女のミニスカートから時折覗く白い太腿がやけに新鮮でまぶしかった。

二階には5~6室他にあるみたいでトイレ洗面所は共同だという。

部屋に入ると三畳間で何にも無し。布団とやぐら炬燵だけは貸してくれると言う。

みっちゃんは背の低い八重歯が可愛い十代後半の色白の娘であった。

当初の計画とは大幅に違い焼肉屋からフルーツパーラーのお店になろうとは夢にも思わなかった。

以外に逆境に強いというか、郷に入っては郷に従え的ないたって無神経な栄次は切替も早く何一つ悲観する事もなかった。

明日からこの和歌山のこのアパートで暮らす事となり、気持ちを切り替えて「よし!」

と自分自身に喝を入れてから店に顔を出す事にした。

マネージャーと目が合うと「おう!お前明日からで良いぞ!」と声を掛けてくれた。

「もし、暇ならカウンターの中覗いて行け!」

カウンターには少し年上と思われるバーテンが居て、軽く会釈して中を見せてもらう事にした。「栄次と言います!宜しくおねがいいたします。」

今迄横浜でソフトドリンクと軽食、アルコール関係の経験しか無い栄次はフルーツの

パフェやサンデーの注文を軽々と作っているのを見て不安になって来た。

栄次が見ている間に5~6個の注文を手際よくこなしているのだ。

ペテナイフは使えるけれど、高尚なピラミッドやウサギを作るのを見ていささか自信を失いかけていた。

先輩にちょっと手の空いたときに、分からない処を聞いて今日中に一通りの事を覚えようと必死だった。

暫くする内に、先輩とも打ち解けて色々教えてくれるようになった。

「注文入ったらチョットやって見るか!」と言って、何回かつきっきりでやらしてくれたのだった。

二時間位やっただろうか、何とか明日から出来そうな気がしてきた。

後は、メニューを全部覚える事である。

マネージャーにお願いしてメニューを一冊お借りして部屋で覚えようとそそくさと

アパートに戻った。

外がうす暗くなり、カーテンも無く素通しの部屋にバッグ一つの生活である。

突然、「コン!コン!」と、ノックの音。

誰も訪ねて来るはずも無いのにと思いながら出て見ると・・・・・・・?

訪ねて来たのは誰か?新しいお店での栄次はどうなる?

・・・・と、言うお話は次回夢心地のkokoroだ!

夢心地「「岩田栄次の波乱人生」第19話

第19話「新天地 和歌山の巻その1」

横浜馬車道のアパートを後にして、チーフと待ち合わせをして一路和歌山に向かった。

勿論、栄次は初めての和歌山であった。

和歌山駅を降りて目的地に着いた。・・・が、

来る途中チーフに聞いていた処に、話していた建物も店も無く工事らしき事もやっておらず何にもないのだ。

チーフの話によると、貸店舗を借りて改装し焼肉店をやる事になっており、今改装中の

ハズであるわけなのだがその兆候はまるで無い。以前飲み屋だっただろう建物は古びて

窓ガラスが殆ど割れて誰も住んで居る様子が無い。完全なあばら家であった。

近くの公衆電話からチーフが誰かに電話している。BOXから出て来た途端「クソッ!」

と、大きな声で怒鳴り散らした。

雰囲気からして栄次はヤバイと感じた。チーフは状況の説明も何もせずに

「今日はビジネス取ってあるからそこに行け!」と言われ駅近くのホテルへ一足早く行く事にした。しばらくしてチーフが戻りコップの水を一気に飲み干すや否や話し出した。「栄次!当分ダメだ!お前しばらくの間、段取りつけるから黒門町の店で働いていろ」何も言えず黙っていると、「大丈夫!必ずやるから!」

黒門町で俺のダチがパーラーの店やっているから話つけてくるから・・いいな?」

怒涛の如く一方的には話をして又出かけて行った。

結果、何と翌日から黒門町のメイン通りにあるヒスイと言うカフェと言うか喫茶店

住み込みで行く事になりそうである。

朝一番で教えてもらった通りの真ん中あたりにあるお店を訪ねマネージャーらしき人に

チーフから教わった口上を話すと、角刈りの多少ヤクザ風の彼が「おう!聞いてるぞ!」「市ちゃんから頼まれているから。」と言い、近くにいた店の若い女の子を呼んで「おい!みっちゃん!悪いけどコイツさ今度ウチでやる事になったから店の前の二階

の下宿部屋に案内してやってくれ。」「ところで名前何てんだ!」

「岩田栄次です!」と答えると、彼女に案内してもらいながら何となくタコ部屋にでも連れて行かれるような気分であった。

この後栄次はどうなる・・・と言うお話は次回夢心地のkokoroだ!

 

夢心地「岩田栄次の波乱人生」第18話

第18話「栄次突然の旅立ち」

 チーフが久々にやって来て「和歌山の店の目途がついたから今月末には行けるようにしろ!良いな!」「ママには最初からそう言う条件で話をしてあるからな!」と、

一方的に言われたのであるが、栄次の心情としてはかなり複雑な状態であった。

余り急な話だけに、ママに言うのが遅れると店にも迷惑がかかるし

今晩閉店時に話をする事にした。

すべての片づけが終わり話をする事になり・・

「ママさん!実は、市村チーフが今日来まして・・・本当に急で申し訳ありませんが、

一緒に和歌山に行かないといけない事になってしまいました」

「申し訳ございませんが、今月一杯でお願いいたします。」と切り出した。

「エッ!本当?」唖然として何も言えないママ。

信頼され長く働いて欲しい気持ちも痛切にわかるだけに栄次も辛かったが、

「本当に済みません!親切にして戴き面倒見て貰って感謝してます。でも、これは、

男同志の約束なので、義理をかく訳にはいかないんです。ママさんには本当に済まない

と思います。月末まで休みなしで働きますので次の方の手配をお願いいたします。」

「市村さんとも最初から約束してた事だから仕方ないけど、とても残念だわ」

「こっちに来たら顔を出してね!何かあったら電話して」と、

優しい言葉を掛けてくれた。

そんなこんなで、次の若いバーテンが入り引継ぎを済ませ、いよいよ今晩限りでこのお店とも、美人のママさんともお別れである。

別れを告げて店を出ると「コレ少ないけど餞別ね!」ママが紙に包んだお金を栄次に手渡した。

「短い間でしたがママの事をお姉さんみたいに思っていました。忘れません!失礼します!」と、最敬礼して立ち去った。

アパートに着きママからの紙袋を開けて見ると一万円札と手紙が入っていた。

「突然の事でビックリしたけど、君の為にもこんな処に埋もれていてはダメだから

ちょうど良いチャンスなのかも!もっと長く居て貰いたかったんだけど、これも

運命ね!私みたいなおばさんが言ってもうれしくないでしょうけど、このままいたら

栄ちゃんの事好きになっちゃったかもね?頑張って!ハマの隅で陰ながら応援しています。   けいこ。」と結んであった

複雑な気持ちで読み終わり、ママの気持ちや人の温かさに涙ぐんだ。

又、他の人は誰も知らなママの名前がケイコだと栄次だけに

教えてくれたのも嬉しかった。翌朝馬車道のアパートを引き払い、一路和歌山へ!

栄次の波乱な和歌山編は次回夢心地のkokoroだ!

夢心地「岩田栄次の波乱人生」第17話

第17話「ママは女遠山の金さん」

前回、栄次は美人ママさんに後ろから抱き付かれて、かなり、男として危険な状態であったが・・・・気が付いたものの、身動きが取れずじっとしている他なかった。

お昼近く迄そのまま寝ていただろうか?

ママが抱き付いたまま目を覚まして「栄ちゃん!ごめんね。寒かったものだから!」

と、起き上がった。慌てた栄次は「あ!僕は良いです!何にも無い・・・」と、

ドギマギ状態で答えた。

「栄ちゃん!有難う!それじゃあ今晩お店でね!」支度を整えてママは出て行った。

何か気が抜けた空気間であったが、何事も無くママさんが帰り、夜のお店で気を遣う事

も無く働ける自分に満足していた。

それから何日か経った日の事である。

いつものようにカウンターの中で仕事をしていると、二人連れの見るからにヤクザ風

のガラの良くない男達が入って来た。

「いらっしゃいませ!カウンターで宜しいですか?」と、おしぼりを差し出すと

受取りながら、「奥はビンゴやってんのか?ハナ(最初)はいくらだ?」

「最初に5千円両替して頂いてますが・・・」と答えると「じゃあ!二本くれ」と、

言って一万円をカウンターに置いた。注文の水割りを手渡すと、奥の部屋にそそくさと入って行った。

それと折り返しママが奥から早足で出て来て、頬に指をたて

「栄ちゃん!コレだから!言葉だけは気をつけてね!大丈夫!私は慣れているから」

と、言い残し又奥の部屋に入って行った。

その日は奥の部屋に彼等以外に二人、カウンターに常連客が二人いた。

暫くすると、奥で何やら騒々しい。

ママの声がした。「台を動かしたら困るんだよ!」すると、男が「何をっ!」

「もう少し静かに遊んでくれないかね!」とママの声

「こんなインチキ台やってられねえよ!こりゃあ!詐欺だぜバカ野郎!」

すかさずママさんが「お前ら!何処の者だ!○○組に仕切って貰ってるから

チョット来て貰おうか?」と、日頃上品で美人のママからは想像のつかないドスの

効いた怒鳴り声が聞こえて来た。

急に静まり返ったと思ったら、男達は捨て台詞を残して出て行ったのである。

「ママ!大丈夫ですか?」と心配すると、

「ヤクザ怖がっていたらこの商売やってられないよ!」

すかさず、お店のお客様に頭を下げて「皆様申し訳ございません!お騒がせしまして

コレはお店からのおごりですので飲んで下さい!」と言って栄次にビールを出させた。

流石である。常連のお客様に即対応するママの姿勢に感服したのであった。

ママの心くばりはソレだけじゃあ無い。

ゲームで負けたお客様に無料ドリンクを出したり、スッテンテンの人には帰りがけに

千円握らせて「今度頑張ってね!待っているから」と、甘くささやくのである。

殆どの常連さんが引っかかって又やって来る。

つくずく男って奴は女に弱くてバカな動物であると思った。

帰りがけに栄次にも二千円握らせて「嫌な思いさせたね!」と言った。

 

何日かして久々にチーフが店にやって来た。

「栄次!やっと目途がついたぞ!」チーフの言葉!

さて、この後栄次はどうなる?

 

 

 

夢心地「岩田栄次の波乱人生」第16話

第16話「栄次!運命の分かれ道」

親指の傷もやっと痛みが消えて、取れそうだった親指も無事元のさやにおさまった。

いつものように薬味を刻んでいると、ドタドタとチーフが入って来たが何か雰囲気が違い、かなり機嫌が悪そうであつた。

いきなり白衣と前掛けを脱いで机に投げつけた。呆気にとられその様子を見ていたが

余計な事を言って怒られたんじゃあ合わないと思いじっと黙って見ていた。

その時、突然「栄次!ちょっと来い!」と事務所に呼ばれた。

恐る恐る近くに寄ると、憤つた声で「俺は今日限りで店を辞める事にした!」

どうやら社長と揉め事があって口喧嘩になったようである。

最後はチーフの方から啖呵をきって「辞めてやる!」と言ったらしい。

「お前を店に引っ張って来て、すまない事になっちまったが・・・・・もし、一緒についてくるなら次の処紹介するし・・・」

答えに戸惑う栄次の頭の中で、もしチーフが居なくなれば当然年下の健さんが責任者になり、今以上にきつくやりにくい雰囲気になるに違いないとの思いがよぎった。

今以上に先輩風ふかすだろうし、何かあってもホロしたり喜んでくれるチーフが居なければつまらないと思いがよぎった。

「俺!チーフに惚れてここについて来たんで、一緒に辞めますよ!」

チーフは「そうか!よし!」と肩をポンポンと叩いた。

簡単にやめる事になってしまい、お世話になった地下のマネージャー達に事情を話したら、その日の晩に温かい人達に囲まれて送別会をしてくれる事になった。

短い期間だったが、裸一貫ザック一つでやって来て人の優しさや厳しさを実体験できた人生であったと思った。

店を辞めたら下宿も出なければならず、チーフもすぐには職が無くしばらくの間他の店で勤めなければならない。

すぐさま、チーフの紹介で野毛町のスナックを紹介してくれてバーテンとして働く事になった。

店の名前はドリームと言い10坪位のお店で30代の美人ママさんが経営しているお店で、昼間は他のバーテンと女の子の二人でやっているようである。

夜の12時迄ママとやってほしいとの事である。

チーフは、和歌山の知り合いが焼肉店を開業したいという事で、目途がついたら呼び寄せるからそれ迄我慢してくれと言い和歌山に旅立って行った。

馬車道通りに下宿も決まり引っ越して、店のお客から貰った簡易ベットを運び、後は荷物袋一つだけである。店のママさんから布団と毛布を有難く戴いた。

お店奥には、ビンゴゲームが3台置いてあり一回100円玉5発で画面の指定した場所に3ツ以上入れるとお金がもらえるという機械である。

連日夜になるとビンゴ目当てで来店する常連は、コーヒーを注文して必ず百円玉一本

5千円を両替して行く。

時には両替して一万とか持ち帰る客はいても、殆どのお客は使いきって帰って行く。

それに美人ママがちょっと甘い言葉を掛けて皆虜でイチコロなのである。

昼間の売上がどのくらいあるかわからないが、夜のビンゴの稼ぎは相当な物である。

入店して1ケ月位経ったが未だチーフから何の連絡も来ない。

ある晩の事、滅多に酔っぱらった事の無いママさんが結構酔ってしまった。

泥酔した状態でママの自宅も解らず、聞き出せる状態でも無く仕方なくタクシーに乗せ

汚い栄次のアパートに連れて行く事となった。

泥酔した彼女を担いで栄次のベッドに寝かせ、自分は数少ない座布団とシーツに

包まって寝る事にした。

朝方、やけに背中が温かい・・と思いそっと振り向くとベッドにいたはずのママが栄次の背中にしがみついて寝ているではないか。・・・・

この後どうなるかは次回夢心地のkokoroだ!

 

夢心地「岩田栄次の波乱人生」第15話

第15話「名誉の負傷」

初めてセンマイの調理を任された栄次は、全てのヒダを洗い終わったものの

水切り作業をしようと左手でそのセンマイを持ち、右手に持った小刀で太い柱に

刺そうとした・・・その時水分を含んだセンマイが重く1cm位下にずれた瞬間

左手の親指の第一関節の上あたりに刺してしまい、自分の顔に血しぶきが飛び散って

当たり一面血だらけになってしまった。

「いてっ!」悲鳴をあげて指を押さえる栄次に、「バカ野郎!何やってんだ!」

「すぐ消毒薬と脱脂綿もってこい」と健さんに言いつけて、輪ゴムで二十三十に

指に巻き付け血止めをしてくれた。

手際良く消毒してから「病院へ行って来い」と言われ、チクチク痛む指をおさえながら

病院に駆け込んだ。

医者に診てもらうと痛いはずである。親指の頭が取れそうな状態ではないか。

見れば見るほど痛みが増してきた。

何の仕事でも失敗はつきものであるが、余りにも痛い失敗であった。

こういう事を乗り越えながらみな成長していくんだ!なんて解ったような事を

自分に言い聞かせる栄次であった。

しばらく経って指の痛みも引けた頃、思いがけない事件が起こった。

・・・・と言うお話は次回の夢心地のkokoroだ!

夢心地「岩田栄次の波乱人生」第14話

第14話「栄次も立派な料理人」

■当初の期待に反して半年近く皿洗い、掃除、雑用の毎日であった。

そんなある日の朝、いつものように出勤すると、チーフに呼ばれ何やら40cm位の新聞紙に巻いた細長い物を栄次に手渡された。

「半年間よく頑張ったな!これは俺からのプレゼントだ!」

「チーフ!何ですか?」の問いかけに

一生物だから、大事にしろよ!」・・・・と。

訳も解らず受け取った新聞紙をそーっと開けて見ると、何と!それは料理人の命とも言える包丁であった。

「チーフはやっぱり俺の事っを考えていてくれたんだ!」とずっしりと重い包丁に感激していた。

しかも包丁は包丁でも朝鮮包丁である。朝鮮包丁は日本ではなかなか手に入らない言われていたもので大きさも他の物に比べて一回り大きく、一本最低でも一万円はする品物であった。

それだけに栄次は感動と感激でメチャクチャな気持ちであった。

10時半頃お昼の材料の仕込み時にチーフがいきなりガラガラ声で言った。

「今日から栄次お前が薬味をカットしてみろ」

驚いている栄次の横で、健さんが言った。

「チーフ!良いんですか?こいつには未だ早いんじゃあないですか?」の問いに

「余計な事言うな!健!お前は今日から汁物やれ!」と、どやされた。

チーフに目で合図され、「良いからネギ切って見ろ!」とネギ束を渡された。

レモンとかきゅうりとか果物関係はペティナイフで切った事はあるけれど、こんな本格的な朝鮮包丁でしかも、いきなりお店で使う薬味を切れと言われても、包丁の動かし方も知らない栄次は見様見真似で恐る恐るネギを切り出した。

何とか一本切刻んだと思ったら、全てが繋がっており二人に大笑いされてしまった。

その日を境にいつもより早く店に来て包丁の勉強をするようになり、前日に廃棄する

野菜クズを取っておいて、みなが来る前に練習をしたのだった。

何日か経って栄次の薬味カットを見ていたチーフが言った。

「オッ!栄次短い時間で上達したな!」と、褒めてくれた。

「よし!今日はセンマイ(牛の糞袋)洗って料理して見るか?出す時は酢味噌だぞ!」

余りの嬉しさに「ハイ!解りました」と大きな返事をして冷蔵庫からセンマイを洗い場に運び一枚一枚まくりながら綺麗に洗いだした。

センマイと言う名の通り何枚ものヒダがついた牛の糞袋である。

ワラが一枚一枚の間に詰まっており、それを綺麗に洗い流すのである。

30分位掛かり洗い終わったセンマイは水分を含んで結構重い。

そのセンマイの水切りをしようとした時、突然栄次に事故がおきた!

どんな事故かは次回の夢心地のkokoroだ!