第12話「キラキラ光る夜空の星」
■一晩考えた末栄次はチーフの意向に沿って朝鮮料理店に行く事を決心した。
それは、今の自分には何にも誇れるものが無い事、将来自分は何を糧にして生きて行くべきなのか、折角水商売に飛び込んだんだから包丁が使えるようになった方が良い等と
考えあぐね、Mgの言葉にも後押しされて決めたのであった。
今迄、毎日地下に出勤していたが、今日から1Fの朝鮮料理店への出勤である。
「おはようございます!宜しくお願いいたします」と、大きな声で厨房に入ると
初対面で同年代位の口髭をはやした白衣姿の男が出て来た。
「店はまだだよ!」と、かなり冷ややかな眼で睨みつけられた。
「いや!お客じゃあ無くて、チーフに言われて今日からこちらにお世話になる者ですが」と、言うと「何?ここで?」と、より険悪な雰囲気であった。
どうも自分が来る事を知らされていなかったようである。
暫くしてチーフがやって来た。
「おい!健!バックから白衣とエプロンもってこい!」紹介もされていないこの男は
健さんと言うらしい。
ぶっちょうづらで白衣を栄次に渡しながら「お前!ここで働くのか?」と、
聞いてきた。
栄次が答えようとする前にチーフが「おう!コイツ下の店にいた栄次だ!」
「今日から此処でやるから、お前が教えてやれ!わかったか!健!!」
「栄次は健の下で当分見習いだぞ!」「健!ちゃんと面倒見てやれよ!」
彼に命令して競馬新聞を持って出て行ってしまい、残されたままの栄次は
かなりの不安にかられながらも「頑張ります!宜しくお願いします」と一礼した。
後で聞いてみると健さんは栄次よりも2つも年下であり、口髭を生やした風貌からは
そんなに若いとは想像もつかない人であった。
この日から何と、年下の彼に顎で使われる事になろうとは思いもよらない事だった。
この店に来て1週間位の事。
栄次が皿洗いをやっていると、健さんが洗い終わった皿を見て「バカ野郎!なんだ!
この洗い方は!」が早いか菜箸を栄次に投げつけて来た」
ビックリして「済みません!すぐやり直します」と、答えたが、あまりの態度と
菜箸を投げつけられた事に悔しさと驚きに体が熱くなるのを覚えた。
2つも年下の小僧になめられた悔しさもあったが、逆に何にも出来ない自分が恥ずかしくなった。
夜、厨房の裏手からゴミ出しに外に出た栄次は、キラキラ光る夜空の星を見上げ ジーンとくる目頭を押さえた。
この後栄次はどうなったかと言うお話は次回の夢心地のkokoroだ!