夢心地「岩田栄次の波乱人生」第14話

第14話「栄次も立派な料理人」

■当初の期待に反して半年近く皿洗い、掃除、雑用の毎日であった。

そんなある日の朝、いつものように出勤すると、チーフに呼ばれ何やら40cm位の新聞紙に巻いた細長い物を栄次に手渡された。

「半年間よく頑張ったな!これは俺からのプレゼントだ!」

「チーフ!何ですか?」の問いかけに

一生物だから、大事にしろよ!」・・・・と。

訳も解らず受け取った新聞紙をそーっと開けて見ると、何と!それは料理人の命とも言える包丁であった。

「チーフはやっぱり俺の事っを考えていてくれたんだ!」とずっしりと重い包丁に感激していた。

しかも包丁は包丁でも朝鮮包丁である。朝鮮包丁は日本ではなかなか手に入らない言われていたもので大きさも他の物に比べて一回り大きく、一本最低でも一万円はする品物であった。

それだけに栄次は感動と感激でメチャクチャな気持ちであった。

10時半頃お昼の材料の仕込み時にチーフがいきなりガラガラ声で言った。

「今日から栄次お前が薬味をカットしてみろ」

驚いている栄次の横で、健さんが言った。

「チーフ!良いんですか?こいつには未だ早いんじゃあないですか?」の問いに

「余計な事言うな!健!お前は今日から汁物やれ!」と、どやされた。

チーフに目で合図され、「良いからネギ切って見ろ!」とネギ束を渡された。

レモンとかきゅうりとか果物関係はペティナイフで切った事はあるけれど、こんな本格的な朝鮮包丁でしかも、いきなりお店で使う薬味を切れと言われても、包丁の動かし方も知らない栄次は見様見真似で恐る恐るネギを切り出した。

何とか一本切刻んだと思ったら、全てが繋がっており二人に大笑いされてしまった。

その日を境にいつもより早く店に来て包丁の勉強をするようになり、前日に廃棄する

野菜クズを取っておいて、みなが来る前に練習をしたのだった。

何日か経って栄次の薬味カットを見ていたチーフが言った。

「オッ!栄次短い時間で上達したな!」と、褒めてくれた。

「よし!今日はセンマイ(牛の糞袋)洗って料理して見るか?出す時は酢味噌だぞ!」

余りの嬉しさに「ハイ!解りました」と大きな返事をして冷蔵庫からセンマイを洗い場に運び一枚一枚まくりながら綺麗に洗いだした。

センマイと言う名の通り何枚ものヒダがついた牛の糞袋である。

ワラが一枚一枚の間に詰まっており、それを綺麗に洗い流すのである。

30分位掛かり洗い終わったセンマイは水分を含んで結構重い。

そのセンマイの水切りをしようとした時、突然栄次に事故がおきた!

どんな事故かは次回の夢心地のkokoroだ!